「見切り発車」修行場。二次創作、オリジナルに関わらずジャンル混合短文置き場。 版権元とは一切関係ありません。
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時系列的には「月光録」時点の伽月(+御神)の話。
あたしがあいつの背中を容赦なく叩き付けると、あいつは少し息を詰まらせてよろめくけれど一瞬で体勢を立て直す。いつものことだから、と呆れたようにやる気のない視線をあいつが投げかけるのを見てあたしはまたひとつ大きく音を立てて平手で背中を叩きつける。
学生服の上から背中を引っ叩く甲高い音が響き渡る。
眉をひそめて恨めしそうにこっちを見てくるあいつの表情の中にほんの僅かに覗いた微笑みの色。それを見つけてあたしは嬉しくなる。
もうあいつにこの顔をさせてやることができるのは、あたししか居ない。
あの頃から変わらないでいるのはもう、あたしだけ。
「カヅはんは変わりまへんなあ」
数年ぶりに出会った矢先、懐かしそうに晃に言われた言葉。
「5年前、か?あのときからほとんど変わっとらへん」
「コウちゃんだって変わってないじゃん!・・・って言いたいけど」
「ワイは、アカンで」
強気に笑ってみせるムードメーカーの少年の姿はもうその面影しか残っていない。
「カヅはんはホンマに・・・ちょっとは女っ気が出たかと期待しとったんやけどなあ」
「うるさいなあ!」
「・・・正直な話、カヅはんは鎮守人になるかと思ってたで」
いきなり声のトーンが落ちる。
「あいつが出てったんは鎮守人としてなんやろ?」
「うーん、あたしも探してはいるんだけどさ」
「鎮守人やないとまともに情報も降りてこんやろ。カヅはんなら鎮守人になってあいつのこと探すんやないかとも思っとったんやけど」
「・・・仕方ないよ。あたしは変わっちゃいけないんだから」
あまりに変わり果てたかつての戦友に引き寄せられたのか、伽月は普段口に出さないことを思わず呟いた。
「あたしだけは、変わっちゃいけないんだ。待っててやらないと・・・あいつが悲しむから」
伽月は飛鳥が彼女をよりどころにしていることを充分に理解していた。だからこそ伽月もそれに答えようとした。
幼い頃の「あの事件」以来、周囲の大人たちへの不信感、詩月の体調の変化、見える世界の食い違い――その全て、周囲の環境が反転した世界の中で、伽月だけは飛鳥にとって過去の平穏の時を示してくれるただ一人の存在だった。
あの事件の以後も飛鳥に変わらず接してくれる。彼女だけは前と変わらない。
彼女が飛鳥にとって唯一の日常への回帰。
だから伽月は昔から変わらぬお転婆な態度をとり続ける。年を重ね、分別を求められるようになってもできる限り幼少時と変わらないでいようとした。彼女の時は幼い時から動いていない、動かしていない。
伽月が笑って飛鳥にちょっかいをかける度に、彼は表面では疎ましそうにしながらも微笑んでくれている。昔のように声を上げて笑ったりはしてくれないけれど、それでも笑顔を忘れていないことを確認できる。それで充分だった。
そして時を重ね、少年も大人になってしまった。
少年時代の友人ももう、そのままの姿ではここにいない。
彼が心許せる人間が増えても、また周りは変わっていく。
飛鳥が望むかつての姿を少しでも、留めておきたい。
だから、伽月は変わらない。
彼の帰ってくるところ――日常を守るために。
―――
伽月が可哀想なくらいお馬鹿だった前作と、存在感がどこか薄いけどちゃんと心配してあげている今作。総合して出た結論。幼い頃から時を動かしていない伽月の話。わざと馬鹿やってたと思えばまだ許せる・・・よ、ね?
自己設定の伊波飛鳥はひねくれ・やさぐれ。
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