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「見切り発車」修行場。二次創作、オリジナルに関わらずジャンル混合短文置き場。                                         版権元とは一切関係ありません。
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 「転生学園幻蒼録」の伊波と九条さん。
 ここの伊波さんはひねくれ・やさぐれてます。

 12/25 若干修正




 執行部室の一時、静かで穏やかな時が流れる。遠くに聞こえる外の喧騒もどこか遠く、今九条の耳にはっきりと届くのは部屋の隅で入れられている茶器の音だけだ。
「静かだな」
 同意を求めるように出した声にも返答はない。相手は無言で急須を傾けている。
「飛鳥は逃げなかったんだな」
 幼馴染はお前を見捨てて表の仕事から逃げたのに、とからかう様に言ってやっても、別段変わった反応はない。伊波は黙ったまま茶を置いていく。書類の確認のために席を外している結奈のところにひとつ、そして九条のところにも。その間に交わされた会話はない。茶を受け取ったときに礼を言ったが、軽い目礼でかわされた。最後に自分の分を持って伊波は自分の席に着いた。さり気なく先程座っていたところよりも若干九条から遠い席だ。
「飛鳥は俺のことが嫌いか?」
 出会った当初から、あからさまにでこそないがさり気なく避けられていることを分かっているからこそ、九条は努めて軽く彼に尋ねた。 
「何故」
 答えは簡潔。書類に目を通したままで九条の方を見ることもなく、切って捨てるように返答。
「天照館高校生徒自治執行部総代のことを尊敬することはあれど、嫌うだなんて無礼なこと」
 慇懃無礼という言葉が適切だろうか。
「でも、嫌いなんだろう?」
「まさか」
「いや、はっきり言ってもらった方がいい。俺もその方がすっきりするしな」
「そんな風に言われても困ります」
 伊波はようやく顔を上げた。九条の方に目を向ける。
「例えそうだとしても、言える訳がない」
「何故だ?俺は気にしないぞ」
「あなたが気にしていないことを、僕が嫌っているから」
「嫌いなのは郷とその貴族衆――といったところか」
 あっけらかんと言い放ったその言葉に、伊波は目線を鋭くした。九条は笑顔のままで伊波を見つめている。
 根負けしたのは伊波。
「僕は、どれだけ嫌なことがあっても・・・ほんの僅かでも僕に笑顔を向けてくれる人がいるこの郷のことを嫌いになることなんてできないし、貴族だからといってその全てを恨むことが筋違いであることも知っています」
 ――それに対して感情がついてくるかどうかは別なのだが。
 飛鳥はまだそこまで大人になれてはいなかった。
「・・・でも、俺のことは嫌いなんだろう?」
 鋭い人なのに最後の詰めを誤る人なんだな、と心の中で伊波はため息をついた。
 本来伊波は九条綾人という人物そのものを嫌っている訳ではない。九条が言っていることを正確に表すならば、「九条家」の九条綾人が好きにはなれないのだ。
「言葉を濁す必要はないさ。飛鳥が思っていることを言ってくれれば」

 鋭いのにどこか鈍い人。
 自分の立場を知らない人、知ろうともしない人――知った気になっている人。
 きっと九条綾人は伊波のこの複雑な嫌悪と郷愁の同時存在という感情を理解することができないのだろう。

「・・・あなたのことは、だから好きじゃないんだ」

 理解してもらおうと思っている訳でもないが。

 全ての背景を差し引いても残る、鋭い針のような感情が、そこに。






―――――
 伊波さんは九条さんのことが好きではありません(don't like)。
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