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飛鳥と伽月、結奈。九条は話題だけ。
ここの飛鳥は九条さんのことが好きではありません。
藍碧台に座ってぼーっと景色を眺めている。飽きることなく、ただじいっと自身の生まれた土地を見下ろしている。
郷の全てを見渡すことができる眺めの非常に良い場所でありながら、ここには人気があまりない。郷を少しではあるが出た場所にあるし、少々きつい坂をいくらか上る必要がある。それらを厭わぬ者だけが、ここの景色を満喫しに来るというわけだ。そして、飛鳥とその幼馴染もその中の一人なのである。
そろそろ頬を撫でる風が冷たくなってきた。季節の移り変わりを実感して、飛鳥はため息が零れた。
面倒なことに巻き込まれてから、もうそんなに経っているというのか。
風と共にやってきた一枚の葉に目を奪われた。すっと飛鳥の目の前に落ちてくる。それを凝視している自分に気が付いて、また苛立ちが募った。
「・・・ああ、もう」
目の前をちらつく葉を掴み取って握りつぶした。手を開いて今自分が握りつぶした葉をまた見る。
「何を、しているんだか」
「ほんとに。何してんの」
飛鳥が首だけを回して声のしたほうを向く。呆れた顔をして仁王立ちしていたのは伽月。
「まあね。楓の葉を見ただけで苛立つなんて、馬鹿みたいだ」
「楓?なんで楓なのさ。あんた楓に恨みでもあんの?思いっきり潰しちゃって・・・まだ青いのにもったいないなあ」
「恨みなんてあるか。ただ」
納得がいかないという顔で、飛鳥は毒づいた。
「楓を見ただけで、ある人物の顔が思い出せてきて。腹が立ってくる」
裏を返せば、それだけ飛鳥の中に、楓の使い手の存在は大きかったのだ。
「もうすぐ紅葉だな」
「それよりも、もうすぐ菊花祭だぜぇ。執行部は劇やるんだろ?」
「・・・そうなのか?そんなまた面倒な」
「紅葉、今年はまた一段と鮮やかだな」
執行部室の窓から見える峰々を彩る色をぼんやりと眺めていた飛鳥が、ぽつりと呟いた。手元には栞を挟んだそれなりに分厚い本、書院から借り出してきた古い書物をまとめたものの一つだ。
書類をまとめていた手を止めて、結奈も窓の方に顔を上げる。
「そうですね。まるで・・・」
「血の色、みたいだ」
結奈の言葉を遮るように、飛鳥が淡々と言葉を発した。
「生きている人の、鮮やかな生の血色・・・なんて」
言いかけて、ようやく飛鳥は我に返ったように口つぐんだ。
「・・・変なこと言った。忘れて」
「あ、いえ・・・」
「紫上も何か言おうとしてただろう、何て言おうとしてたんだ?」
取り繕うように問われたことに、結奈は慌てて答えた。
「・・・山が、燃えているようだ、と思いまして」
「なんだ」
どこか寂しそうに飛鳥は遠くに目をやった。
「紫上も結構不吉なこと考えてたんだな」
窓の外に目をやったまま手元の栞をもてあそぶ。
その栞には、紅葉した楓の押し葉が施されていた。
飛鳥がいなくなってから、ずいぶん経った。
前触れもなくいきなり姿を消しただけでも許せないというのに、それ以降全く顔を出すこともないものだから余計に腹立たしい。
だが伽月は、飛鳥が生きていることだけは知っている。生きていて、どこかで何かをやっていることだけは知っている。だから伽月はこの地で、飛鳥が生まれた天照郷で待っている。彼の居場所を守るために。そして、彼の便りを受け取るために。
1年に1度だけ、差出人未記名の年賀葉書が一之瀬家には届く。
変わらない見慣れた丁寧な宛名書き、表に書かれているのは「あけましておめでとうございます」の一言だけが隅っこに小さめに、でもしっかりと書かれている。
そして葉書にはいつも楓をかたどったシンプルなデザインが、描かれている。
―――――
あの人の幻蒼録での使用武器は「活刀 楓」
時系列は 幻蒼録7話冒頭くらい→8話終了くらい→月光録前
・・・葉書の消印が東京だから、東京にいる八雲たちに飛鳥のことを知らないかって尋ねたんじゃないかって思うと面白いかなーとか(笑
でもまあ、見事に印象間逆だもんな。こっちは八雲が素直(と言うか何と言うか)なイメージだし(笑
ぐり