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幼少期飛鳥・伽月・九条さん
「・・・かづちゃん、いますか?」
ぴょこん、と道場に顔を覗かせたのはどこかか細い印象を受ける少年。知らない顔に綾人は少し首を傾げながらも、彼に近づいた。
「かづちゃん、って・・・伽月のことか?」
綾人が寄っていくと、少年はたじろいで半歩下がろうとする。その反応にどうしようかと迷ったが、綾人はそのまま話しかける。
「・・・伽月の友だ「あ、あすか!」
綾人の言葉を遮って、耳に響く伽月の声が届く。それとほぼ同時に綾人の脇を風が吹いた、かと思うと少年は伽月に羽交い絞めにされている。
「いーいとこにきたっ!もう鍛錬ばっかでうんざりしちゃってたんだよー」
「か、かづちゃん、重、い」
「なんだよ、だらしないなっ」
「伽月、お前まだ師範と一緒に鍛錬の途中だったんじゃないのか?」
伽月に絞め殺されそうな少年を見かねて綾人は口を挟む。
「だってつまんないし」
「全く、ミもフタもないことを・・・」
あっさりと言ってのける伽月に苦笑がもれる。
「で、あんたはどうしてこんなつまんないとこに?」
「お母さんがプリン作ったから食べないかって。もうすぐ終わる頃だろうから、かづちゃん呼んでおいでって」
「お、やったーいくいくっ!しづきは?」
「しづちゃんはもう来てるよ」
「うっし。じゃああたしも行くー」
悪びれもせず鍛錬を抜け出していこうとする伽月。綾人は笑いながらもそれを止めない。どうせ止めても聞かないし、後日それが帰ってくるのは伽月自身だ。
「あ、九条さん。師範には黙っててね!」
黙っていてもばれるだろう、と思ったが、伽月はそのまま抜け出していった。
綾人が『彼』に会ったのは、それがはじめてで、そして彼はその後二度と道場に顔を出すことはなかった。
その数日後以降、ただでさえ鍛錬をさぼり気味だった伽月は、全く道場に顔を見せなくなる。
綾人は知らない、その間に何があったのかを。
伽月と、その弟の詩月と、そして飛鳥が、富士で『何』に出会ったのかを。
彼がある程度の権力と行動力を手に入れた後で『何か』が起こっていたことだけは知ったが、その頃にはもう遅かった。
全てが始まっていて、そして着実に終わりに近づいていたからだ。
そして、久しぶりに伽月が道場に顔を出したとき、
「・・・伽月?」
「九条、さん」
道場にいやいややってきていた幼い少女はもうどこにもいなかった。
「あたし、強くなりたい」
「あたしは、強くなりたい。何だってするよ」
少女の決意は、彼女の大切の人たちのために。そして、彼女の懺悔のために。
―――――
幼馴染という関係が好きなのかも。
「月光録」で伽月が九条をどう呼んでるかと思ったけど、意外と普通だったことに驚いた。