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「見切り発車」修行場。二次創作、オリジナルに関わらずジャンル混合短文置き場。                                         版権元とは一切関係ありません。
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 約1年弱前に書いたものにほんの少し手直し。
 テーマとして与えられていたのは「時間制限」でした。

 とある国のお姫様と騎士様の話。

 モチーフは幻水5のカイル。
 姫様は王子に置き換えてみるとすっきりして分かりやすいかも(笑





「姫様、今日もまた一段とお美しいですね」
「今日もその口は絶好調だな。とりあえず礼は言っておこうか」
 きらびやかでありながら華美ではない王宮の中でも一層質素な東の離れ。特に用事もなければ訪れる人間は数人の侍女程度で、人影はほとんどない。
 常に静かな空気がそこを支配しているが、ほぼ毎日といってよい、その空気が吹き飛んでしまう瞬間がある。
 王女殿下の住まう部屋の扉を、軽くノックをしただけで誰何の声も待たず、遠慮無しにずかずかと入っていく青年がいる。
 そして王女はそれを咎めるどころか待ちかねたように微笑みながら彼を迎え入れるのだ。


「今日はいいタイミングで来たな。母上から頂いた茶があってな。今入れるよう頼んだところだ。時間はあるか?座るといい」
 姫様が自分を笑顔で迎え入れる。
 どれだけ忙しくともこの瞬間のためだけに、何とか時間を工面する。下手をすれば仕事を投げ捨ててでも。
 この笑顔は姫様が幼い頃からの、自分だけの特権だから。
「美しい姫様からのお茶のお誘いなんて光栄ですよ」
「美しい女であれば誰でもよいのではないのか?」
 ちょっとおどけて返せば、彼女は口の端をあげて皮肉る。
「姫様は連れないなー」
「そなたのことはよく分かっているからな。その言葉も耳にたこができるほど聞いたよ」
「姫様ー。もっと俺に愛を示してください」
「言葉で言うほど愛は簡単なものではないな」
「俺と姫様の仲じゃないですか」
「誤解を招くような物言いは遠慮願いたい」
「姫様の裸だって見たのにっ!」
「幼い頃のことを蒸し返すな」
 大げさな身振りで倒れ付した自分を、姫様は生暖かい表情で見下ろしてくださった。本来なら不敬罪もいいところだ。
「姫様が優しくしてくださらないと、俺死んじゃいます」
「今日はやけにうるさいな。どうしたんだ」
「俺は……王家に仕える者として、いつでも姫様に溢れんばかりの愛を捧げていますよ」
「もしや婚約の話か」
 笑顔で言われたその言葉は、自分が今最も聞きたくないもので、しかし最も気になっているものだった。
 もうじき迎える姫様の十六歳の誕生日。それと同時に姫様の婚約が発表されると噂が王宮中に流れたのだ。
 姫様が余りにあっさりと口に出したので、表情を隠す余裕もなかった。不安なのをへらへらとした態度で隠していたのに、一瞬にして表情が消えてしまう。強張った顔と声のまま、姫様に尋ねた。
「あれって本当、なんですか?」
「さあな」
「……はい?」
 悪びれた様子もなくあっさりとした返答だった。
「父上が話を進めているのかもしれんが、私は特に聞いていない。まあ年齢を考えても時期としては妥当なところだろう」
「ひ、姫様……」
「相手は最近国交の出来たあの国の次男か、それとも最近問題のあったあそこの国か……」
 何でもないことのように自らの処遇について姫様は語る。姫様の婚約とはすなわち、国交の材料になること以外に他ならないというのに!
「姫様は、それでいいんですか?」
 どこか震えた声でたずねた。
 嫌だと言ってほしかった。せめて、自分だけにでも。
「当然のことだからな」
 せめて、悩んでほしかった。
「姫様は……」
「父上と母上の間に女子として生まれた時点で決まっていたことだしな。何も悩むことはない」
「……本当に、あなたはそれで幸せなんですか?」
「もちろんだ」
 間髪いれずに返される声。
「私は、この国に生まれ、父上と母上の下に生を受けたことを誇りに思ったこそあれど、疎ましく思ったことはない」
 あまりにまっすぐな言葉。
「そして私はこの国を心から愛しているよ。そしてそれはどこからであろうとも変わらない」
 たとえ遠くへ行ったとしても。
「私はこの国からでなくとも、この国を愛せる」
 どうしてこの子は、こんなにも強くなったのか。
 小さな背中を見つめていたあの頃は、もう通り過ぎてしまった。
 そしてこの女の子が、守るべき対象だけじゃなくなってしまったのも。
「姫様……」
「お前には感謝しているんだ。お前は私に、閉じこもっているだけでは分からない、様々なことを教えてくれた」
「……連れ回してしまっただけでしょう」
「おかげで、私は本当にこの国の人々を愛することが出来たんだ」
「……」
 ありがとう、と曇りのない笑顔を向けられたのは、あまりにも心苦しくて。
 後悔する暇もなかった。
「俺……姫様のこと、好きですよ」
「あ……?ああ、今更何を。これで嫌いだと言われたら、私は困ってしまうよ。私もお前のことが好きだし」
 その言葉は、あまりにも残酷な。
 
 超えられない気持ちがある。
 
 あの子は、守るべき可愛い子ども。
 あの子が俺の中で子供でなくなったのはいつだったのだろうか。
 
 あの子は、遠いところの人になった。
 
 どんな立場の人であっても、こうしてお世話をしていれば近い存在だと思っていた。思い込んでいた。
 
 いつからだったのだろう。
 
 自分の感情が分からなくなったのは。
 
 あの子はこの国の王女殿下。
 目の前にいる人。手を伸ばせば届くのに。
 触れることが叶わない。
 姫様が幼い頃から一緒にいたから、触れることを厭われる訳はない。
 
 でも、触れられない。
 
 子どもだと思っていたのに。
 
 
 まだ気持ちの整理をつける時間があると思っていたのに。
 
 もう、猶予はない。
 
 気持ちの整理もつけられず。
 言葉にだって出来ない。
 
 あの女の子は、自分にとって何なのか。
 それも分からない。
 
 
これは、先延ばしにしていた対価。






―――
 姫様のほうは幻水5の王子がモチーフだが、サイアリーズでもある意味いけるかな?(何が
 ・・・モチーフとかいうけれど、ぶっちゃけ二次創作に近い。オリジナルに分類するのも危うい話。でも一応オリジナルに入れておく(笑
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