「見切り発車」修行場。二次創作、オリジナルに関わらずジャンル混合短文置き場。 版権元とは一切関係ありません。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「月光録」で、EDなくて寂しかった伊波飛鳥EDを考えてみる。
――君はまだ、この坂を越えて行ってはならない。
その声を聞いたとき、どうしてだろうか。
やっと、見つけた――そう思った。
「・・・僕は代わりにはなれない」
どこか寂しそうな声色をした男性の声が、八雲の意識を呼び戻した。
周囲の景色を見ると、どこかの屋上だろうか。そして、目の前にはフードを被った陰のある若い男性。
「あなた、は」
一度、天照郷で会ったことがある。あの時、あたたかな眼差しで守っていてくれた人。薄暗い洞窟の中で顔こそはっきりと見えなかったけれど、確かにこの人だ。
そして、それよりも前にもどこかで会ったような既視感を覚える。
「ああ、そういえば、名乗ってもいなかったか」
彼はフードを取って、ふう、と息をついた。
「僕は伊波飛鳥」
「いなみ、あすか・・・さん」
聞き覚えのある名前。そう、一之瀬が言っていた人物だ。鎮守人となって郷を出て行ったかつての執行部員。
「僕には確かに、神たる魂の転生であり、神に相当する魂の資質を持っているかもしれない」
「・・・なにを」
「でも、伊吹の代わりにはなれない」
はっ、と気が付く。自分が何をしてきていたのかを。
この1年八雲が月読で過ごしてきた日々。そして最後に伊吹との別離によってその時全てを守る大きな力を得、これから全てを守っていくための力を失ったこと。
「それに・・・たとえ草凪くん、君が力を望んでこの魂に宿る力を得たところで、人には・・・過ぎた力だ」
そういう飛鳥の顔は、どこか遠くを懐かしむような、そんな薄い笑顔。
「・・・知って、います」
一瞬だけ自身の中に湧き上がった伊吹の力は人を失うかと思うほどで、八雲という存在が失われ、伊吹という神の絶対たる力だけが彼の体を包み込んでいた。
あの力を、飛鳥は持っているというのだろうか。彼が抱え込んでいるものはそれほどのものなのだろうか。
「それでも、僕は、力はないよりもあったほうがいいと、思う。選択肢が増えるから・・・自分の出来ることが増えるから」
八雲の答えに、飛鳥は苦笑した。
「過ぎた力を知ってもなおそう思うのか・・・失うものも多いよ?」
「失ってでも得なければならないものって、あると思う」
「・・・僕には」
真っ直ぐに見つめてくる八雲の瞳から、飛鳥は目を逸らした。
「僕にはそういう考え方は出来ないな・・・力を知る前に、力で失ったものが多すぎたからかな」
飛鳥がぽつりと漏らしたその言葉に、八雲は何も言えなかった。
「・・・そろそろ、戻らないと」
「え?」
「君には、戻るところがあるだろう?君が守りたいと思ったもの、これからも守っていくもの元に」
「・・・あなたにもあるじゃないですか」
「少なくとも、僕が帰りたいところはある。でも・・・もう待っていてくれる人がいるかもしれないかつての『伊波飛鳥』という存在はもうどこにもいないから」
「そんなこと関係なく『あなた』を待っている人がいるのに、帰らないんですか?」
「・・・君は、帰るといいよ。君は戻ることが出来たんだから」
屋上から出るとそこは病院で、急に部屋から消えていたらしい八雲は即座に病室に戻された。事情を聞けば2週間も意識がなかったらしい。
そういえば、意識が戻る直前に彼の声を聞いた気がする。
八雲は、彼に引き戻されたのだろうか。
現世への道へと。そして、人ではない道を辿ろうとする前に。
―――――
八雲が失った伊吹を求めて、それに値する力を持った飛鳥のもとへと向かった話。
我が家の飛鳥と八雲は正反対。
PR
この記事にコメントする